はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」
非科学的且つ、見えないものは基本的に信じない主義だ。
テレビの占いも「射手座のあなた!今日はアンラッキー!」射手座の日本人が同じ運勢になるなんて馬鹿げすぎてる。
いつも世の中を穿って見ていた私は、なんと可愛げのない学生だったろう。
小さい頃よく流し読みしていた星座の本のせいだ。
登場する神々達は昼ドラ顔負けの愛憎劇を繰り広げる。
神って醜い。
そこから所謂スピリチュアル系の話はうんうんとうなずいたりはするものの、右から左に適当に聞き流す事が増えた。
高校在学中から、何度も不定期に見る夢があった。
決まって寝起きは温暖な沖縄の風に吹かれた時のように暖かく、穏やかな気持ちになる。
その夢を見た日の学校や仕事はいつも最高の調子。
ポツポツと灯りが灯るビルの街並み。ぼやりと滲む光が冬を感じる。ふわふわとした軽いパーマの髪の毛。大きな羽で包むように抱きしめてくれるこの人は誰なんだろう。
自分の記憶を探っても思い当たるような人はいない。
願った記憶は無いが、私の願望から生まれた人なのかもしれない。
夢の中で会いにきてくれるこの人と会ってみたいという気持ちが心の片隅に芽生えた。
苦悶してきた人生にそれくらいの生きがいがあってもいいかな。
何事にも執着のない私が、何故だかこの夢の彼だけは気になって仕方がなかった。
夢の中で熱心に会いにきてくれるのに絆されたのかもしれない。
何度も同じ夢をプレイバックしては過ごした数年後。
昔の友人と集まる席に誘われた。
友人と遊びまわっていた、無機質でどこかきらびやかな街。
アオハルを過ごした場所達。
行けるようになった居酒屋。
ちびちび飲めないお酒を嗜んだ。
1人ぽつんと女性が混じった男子会でよかったんだろうか。
いつもならもう少し女友達が混じってる。
男性陣が少し気まずそうにしてる気がしてならない。
気晴らしに連れ出してくれた男性には感謝しつつも、昔と相変わらず頓珍漢な人だなあ、と少しため息が漏れる。
途中退席した私の飲み会代をその頓珍漢に払ってもらったので、数週間後、埋め合わせにと2人でお出かけをした。
昔傷つけられた事を水に流しましょう。
お互いに新しいスタートをくらいに考えてた私は、じゃあね、と夜遅いからといつものバス停まで送り届けてもらった。
引き止められた私の目に映ったのは、冬の柔らかい灯り。ほおや鼻をくすぐるふわふわのパーマ。あのふわりとした温もり。滲んでいた灯りはきっと目を覆った水分のコーティングに反射してたんだろう。
再会しても気づく訳がなかった。
あの頃はもっと刈り込んだ髪の毛で、いろんなものにあたり散らかしていた反抗期男子だった。
そうだ、夢を見始めたのもあなたとお別れしてからだ。
夢の中の彼は私の困ってる時に抱きしめにきてくれていた。
流石に白馬には乗って来なかったし、乗ってきたら多分笑うから結果として良かったが、白のアクセラでお迎えにきてくれたらしい。
なんなら少し抵抗して逃げようとしたけれど、腐れ縁と言うやつなのかもしれない。
夢という未知数の分野を信じざるを得なかった。
その後の私は夢で出会ったボーイッシュな女の子と頓珍漢とわいわい暮らしている。
夢で出会った弟によく似た見知らぬ子は、私の娘として生まれてきた。
生まれた時の親戚の言葉も「弟にそっくり」と。
認めざるを得ない。
そしてまた数年前から同じ夢を見ている。
パパママ、2人の子供と東京駅の構内のようなレンガ作りの場所を手を繋いでとぼとぼ歩く。
きっといつか出会うだろう、もう1人との出会いを待焦がれる人生。
ある漫画の中でも「人の夢は終わらねェ」と言っている。
私は無神論者のドリーマー。
現実逃避して夢想し続け生きながらえるのも、なかなか悪くない。
移ろう世界で消えゆく情景を忘れないよう、思い出が消えないよう、神に祈らない代わりに、私はハグをする。
(追記2021.11.08)
我が家の習慣は日本にもコロナ禍にも反してグローバライズ。