おしゃべりが平均以上に早かった、口達者な我が子の口癖。
「オトモダチがほしい。」
肌身離さずにいるぬいぐるみ達のことを指していた言葉に、明らかに違う含みがあった。
廃校など今もなお子供が減っている地域にいた当時、身内以外でのコミュニティを築くのは物理的に難しいことであった。
人口流入を一気に増やせるような優秀な人材であれば、おそらく仕事に邁進したことだろう。
仮に増えたとしても、活気が戻る頃には君は大人になっている。
私は故郷を飛び出して、ワーキングマザーになった。もちろん家計を助けるためでもあり、オトモダチを望む我が子の願いでもあった。
入園してからは、もみくちゃにされながら和気藹々とオトモダチと交換したお手紙を見せびらかしたり、大好きな先生との会話を嬉しそうに話すのに、口癖だけは入園しても一向に変わることはなかった。
うまくオトモダチと遊べていないのではないか。小さいなりに何か抱えているのではないか。時々園で心配な様子が見られた時期もあり、夜毎私の目元は赤く腫れあがった。
とある本を園から持ち帰った頃から、語彙が増えた我が子の口癖はこう変わった。
「おうちでオトモダチとあそびたいの。」
お家に招待するにも、人との接触を避けてと言われていたコロナ禍では余計に憚られる。
そして共働き父母たちは、おはようとさよならの時間がピタリと合うわけではない。
自宅に呼べるように提案してみたものの、眉間にプニプニを寄せて、大きく首を振った。
「おうちのオトモダチとあそびたいの!」
家族である、ぬいぐるみたちの名を口にしたら非常にご立腹で、顔中のプニプニが中央に集まる。
海外の人が日本語で躓くのはこういうところだろう。助詞一つで全ての意味が変わってしまう。
合点がいった私は、イマジナリーフレンドの世界観を壊さないよう苦慮していたところ、我が子は理解しない母に嘆き、おうちのオトモダチの一例を大層しょぼくれた声で紡いだ。
園で1番仲良しのオトモダチと、その子の妹の名前を。
脱力という言葉を身を持って知った瞬間だった。
私の張り詰めたスイカ腹に巻きつく腕から感じる慈しみは、まるで小さな母親。
手を当て、耳を当て、鼻を当て。
小さな命と皮膚越しに戯れている。
もうすぐ、待望のオトモダチがやってくる。
少しずつ、少しずつお姉ちゃんになっていく心の機微がよく描かれている名作。兄弟姉妹が生まれるお子さんへのプレゼントにもおすすめ。 |
hontoちょっとだけ(紙の書籍)
【追記 2023.04.21】
無事おうちのお友達が産まれて来ました。より一層賑やかになりそうです。